出会った時の気持ち

リリース以来3週間、宇多田ヒカルのベスト盤 SCIENCE FICTION をよく聴いている。もちろんこれ以外も聴くけど、ふと何か聴きたくなった時、これを再生することが圧倒的に多い。1曲目の Addicted To You (Re-Recording) 、あるいはディスク2の1曲目である traveling (Re-Recording) から順番に聴くこともあれば、特にその時気になった曲を聴いてみることもある。それを繰り返していてまず感じるのは、25曲+ボーナス1曲からなるその構成の素晴らしさ。1曲目・Addicted To You再録版からのFirst Love (2022 Mix)、という流れからして完璧だし、25曲目に現れることで Electricity という曲の凄みが生かされているし。各メディアのレビューも指摘していたが、SCIENCE FICTIONは単なるベスト盤というにとどまらず「新作」と言うべき規模の作品である。

最初にざっと一通り聴いてみた時は、まずは2024 Mix と謳われる新ミックスに驚いた。大胆に変えられているところも多いから。そして次に、ミックスを変えていない曲でも結構きこえかたが変わっていることにも気付く。例えば、One Last Kissの「忘れられない人…」のウラでなっている音、BADモードの「エンドロールの…」のハモりのコーラスなど、このアルバムのマスタリングは結構大胆に手を入れているのかもしれない。

そうやって作られた素晴らしいアルバムを街中とかバスの中とか色々なとこで再生していると、突然、特定の一曲が自分に響いてくる瞬間がたまにある。AirPodsをつけてノイズキャンセリングをして、『あなた』を聴いていたら、その外にはアクティヴィストの足音やら業火やらがあって、という「部屋」にいる感覚を味わったり、 "COLORS (2024 Mix)" のスネアの音色が気持ちよかったりとか。それらの曲との、宇多田ヒカル風に言うところの「初恋」みたいなイメージだ。これまでもかなり聴き倒してきた曲たちなのに、またこうやって今までなかった形で「出会う」ことができるのは、やっぱり音が新しくなって、「新作アルバム」のうちの一曲として出会っているからなんだろうな、と思う。(一緒にしてはいかんけれど、宇多田ヒカル本人が深夜に洗濯しながら ミックスが終わったAutomaticを聴いてみたら泣いちゃったというのもなんか分かるかもと思った。)

でも、実はこれに似たことは、SCIENCE FICTIONを聴いている時に限らず、僕は宇多田作品の多くについて経験してきたと思う。そもそも僕は宇多田ヒカルのデビューより後に生まれているので、宇多田ヒカルの音楽は小さい頃から身の回りにあったけれど、それらの良さに気付き、「気に入った」のは後になってからだ。そして、なぜ特定の何曲かにとどまらず「宇多田ヒカル」自体を気に入ったのかと言えば、そうやって聴けば聴くだけまた新しいことに気付かされるという深みがあるから、な気がする。

そうやって、後から宇多田作品を追ってきた僕にとって、この前テレビで言ってた「その人が初めて聴いた時が新譜」という宇多田ヒカル自身の言葉はありがたくも思える。これがツタヤのキャッチコピー「観てない旧作は、新作だ。」と似ているというのを見て笑ってしまった。図らずも、ベストアルバムのキャッチコピーとしても完璧な言葉だ。まあこの発言は、「普段聴く音楽は新譜が多いのか」を訊かれた時の返答なわけだけれど。(オチなし汗)