完璧に見えるあの曲

いつもフワっと思っていることだけれど、宇多田ヒカルの曲には、"完璧で一分の隙もない"感じがするものと"力が抜けていて風通しの良い"感じがするものがある。例えばLettersは前者で、BADモード(曲)は後者。

Lettersは、難産だったという「いつも置き手紙!」をはじめ歌詞も強烈で、GLAYのHISASHIさん含む6人のギタリストが参加しているラテン風のトラックも印象的。セルフコーラスも特に効果的な一曲だと思う。最後の英詞「Tell me that you'll never ever leave me...」でフェードアウトしていくところまで本当に一分の隙もない感じがする。これぞ「硬派ロマン」。

2014年のトリビュート「宇多田ヒカルのうた」でLettersをカバーした椎名林檎もこのように語っている。

丁寧に重ねられた宇多田ヒカルのハーモニーは日本が誇る絹織物のよう。中でもその特徴が大きな魅力となっているナンバーを、敢えて選曲しました。そして、そのような彼女の技を、敢えて取り払うことへ、勇気をもって挑戦しました。彼女の書いてきたものは、土台だけにしてしまっても・・つまり詞曲だけの状態にしたとしても、気高く美しいから。案の定、ただひたすらその事実を証明させられるプログラムになりました。
 当時彼女が、録り終えたばかりの「Letters」を、文化村スタジオの卓から直接聴かせてくれました。わたしはすぐに「もう一回聴かせて」と、せがんだものです。これからなんど聴いたとしても、そう感じることになると予感していましたし、見事的中してもいます。
 つまり、わたしは彼女のオリジナルテイクがだいすきなのです。だから、ほんとうはこんなこと、やりたくなかったのです。しかし、この銘曲を生み出してくれた彼女の偉業へ、精一杯の敬意を込めて取り組みました。彼女への愛を共有してくださるかただけに、こっそりご試聴いただきたいと思っております。

https://sp.universal-music.co.jp/utadahikaru/15th/comment02.html

「つまり、わたしは彼女のオリジナルテイクがだいすきなのです。だから、ほんとうはこんなこと、やりたくなかったのです。」

こう言わしめるのはLettersがどの方向から見ても隙がない"完璧"な楽曲であるが故のことだろう。そして、林檎姐さんのカバーもだいすきです!!

 

曲として一番完璧だと思うのはLettersだが、アルバムとして見るとLettersも収録されている「DEEP RIVER」よりも次作の「ULTRA BLUE」。その間の「Exodus」も。一方で、最新3作(「Fantôme」「初恋」「BADモード」)は反対に風通しの良い感じがする。ULTRA BLUEやExodusの"極限まで煮詰まった"感じとは違い、完成度の高さは勿論のことだが"まだイケる"ような余裕を感じる。

その要因の一つは、宇多田ヒカル以外の人のアイデアが多く入っているか否かだと思う。Fantômeと初恋はバンドサウンドが主体だし、プログラミングに回帰したBADモードでもプロデューサー陣のアイデアがふんだんに盛り込まれている。そして息子氏のアイデアも入ってるし。

一方でULTRA BLUE、Exodus辺りは宇多田ヒカル一人で創作している割合が非常に高い。それはHEART STATIONもそうだが、「Flavor Of Life (Ballad Version)」は他編曲だし、他の収録曲においても、楽曲じたい力が抜けていると思う。

 

結論しては、痛いほどに煮詰まっているULTRA BLUEも好きだし、フレッシュなBADモードもだいすきです。